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Senin, 30 Agustus 2021

ホンダ、「NSX Type S」開発責任者の水上聡氏による技術解説 Type RではなくType Sになった理由とは? - Car Watch

あらゆるシーンでより新しいスポーツ体験を提供できる1台

 本田技研工業は8月30日、スーパースポーツモデル「NSX」の最終モデルとなる「Type S」を発表した。全世界350台限定(アメリカ300台、欧州20台、日本30台)となり、日本での価格は2794万円で、発売は2022年7月を予定している。なお、アメリカの300台は1日で完売したが、日本では先着順ではなく販売方法については各販売店に任せているという。

 今回の発表に先立ち、Type Sの開発責任者である本田技研工業 四輪事業本部 ものづくりセンターの水上聡氏によるメディア向けの技術説明会が行なわれた。

 水上氏は「ホンダに入社以来ダイナミクス性能に携わってきて、夜のテストコースでスーパーカーである初代NSXを体感して感動したことは、今も思い出深く残っている。また、インテグラ TYPE-SやTYPE-Rといったスポーツカーの開発についても今もはっきりと覚えている」とあいさつ。2014年からはダイナミック性能統括責任者となり、軽自動車からフラグシップモデルまでトータルでの性能評価やダイナミクスの提案を行なってきた。そして現在は、NSXの開発責任者を務めている車両開発のプロフェッショナルだ。

本田技研工業株式会社 四輪事業本部 ものづくりセンター 水上聡(みずかみ さとし)氏は、1986年に本田技術研究所に入社。1997年から車両開発に携わり、2000年にはオデッセイ、2003年にはUSアコードのダイナミック性能領域を担当。その後、2005年にインテグラ/RSX/TYPE-Rの車体研究開発責任者に就任。2007年にビークルダイナミクス部門のマネージャーとなり、2008年にUSアコード/インスパイアの車体研究開発責任者を務め、2014年からダイナミック性能統括責任者となり、現在はNSXの開発責任者に就任している

 1990年に初代NSXは“誰もが乗れるスーパーカー”や“ちゃんと操れるスポーツカー”といったコンセプトで作られた。今でこそ世の中のスーパーカーはそういったレベルになっているが、NSXは30年も前にそのコンセプトを提唱していたと紹介。そして2016年に“人間中心のスーパースポーツ”というコンセプトを継承しつつ、電動化技術をいち早く取り入れた2代目が登場。キーテクノロジーであるSH-AWDを開発し、新たなハンドリングと加速フィールを実現したとNSXに歴史を振り返った。

 しかし、ホンダはNSXを完成させることがゴールではなく、2019年にはデザインとダイナミクスを磨き上げ、クルマとの一体感と限界領域でのコントロール性を向上。新色追加を行なうなど、さらなる進化を遂げさせている。水上氏は「NSXの進化は使命であり、宿命でもある」と語り、ダイナミックと個性の表現ができるスーパーカーとして育ててきたNSXの歴史をまとめた。

Type SはSUPER NSXを目指して開発された

 Type Sは人間中心のスーパースポーツという初代からの考えを土台に、佇まいを大切にしならがも、スーパーカーのスペックを極め、エモーショナルでエレガンスな体感をクルマとしてまとめた、「Sのバッヂを付けたSUPER NSX」を目指したと水上氏は言い、あらゆるシーンでより新しいスポーツ体験を提供できる1台として仕上げられた。そのSUPER NSXを実現するために「トータルパワー」「軽量化」「エアロダイナミクス」の3つの基本となるポテンシャルを向上させ、それらを総合的にセッティングを施したという。

ダイナミック・パフォーマンスのコンセプト

「ダイナミクスで目指したのは全速・全域でスーパーカーを体感できることで、ドライバーとクルマの一体感、操る喜びをあらゆるシーンで実際に感じられることを目指した」と水上氏は語る。

 キーテクノロジーとなるのは「SH-AWD」で変わらないが、エンジンとモーターの融合によりトータルパワー610PSを達成したという。具体的には新たに高耐熱の材料を使用したターボチャージャーに交換したことで過給圧5.6%アップを実現。パワーアップにあわせてインジェクターも新たに噴射流量が25%多いものに交換。出力向上による熱量増加については、インタークーラーのフィンピッチをシビック TYPE Rと同じにしたことで放熱量を15%アップ。これによりエンジン単体で22PS、50Nmのハイパワー化を実現した。

 また、フロントのツインモーターユニットの20%ローレシオ化を行ない加速時のレスポンスを向上させるのと同時に、IPU(インテリジェントパワーユニット)のバッテリ使用可能容量を20%アップ、バッテリ出力を10%アップさせたことで7PSのパワーアップに貢献しつつ、スムーズなEVドライブも可能とした。もちろん、これらの性能向上によりバッテリの寿命や燃費が低下することはないという。

 9速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)には、ホンダ車初となる「パドルホールド・ダウンシフト」を搭載。左側のパドルを0.6秒ホールドすることで、瞬時にもっとも低い適切なギヤにシフトダウンできる機構を備えた。サーキットの長いストレートからタイトコーナーへの進入時や高速道路の出口など、高い速度域から一気に減速する際、これまで段階的にしか落とせなかったギヤダウンをワンアクションで可能とし、次の再加速に有効な手段となりアグレッシブなドライブに貢献するという。パドルをホールドしなければ、これまで通り段階的なシフトダウンも可能なので、好みに応じて使い分けることもできる。

 さらにエンジンサウンドも、アクセル操作によって音が反応するインテークサウンドコントロールは、いきなり全開にするのではなく細かく抑揚をつけ、ASC(アクティブサウンドコントロール)は高回転に向けて音がまとまるようにするなど、アクセルワークと車両挙動とのより高い一体感を追求。「よりクルマと対話をできるように完成させた」と水上氏は解説する。

 タイヤはサイズはそのままでグリップ力の向上を狙い、ピレリの「P-ZERO」を装着。NSX用に専用開発していて、タイヤにはホンダの認証マーク「H0(エイチゼロ)」が付く。ホイールは限界性能とコントロール性を引き上げるために、ホイールインセットでフロント+10mm(片側55mm→50mm)、リア+20mm(片側55mm→45mm)のワイドトレッド化を実施。アクティブダンパーシステムでは磁性流体式の従来と同じダンパーを使用しているが、減衰の使用領域を拡大。バネ上の振動をきっちりと抑えて足が動く設定を狙い、ハンドリングと乗り心地の両立する領域を拡張したという。

 続いてフロントバンパーのデザインについて水上氏は、「パワートレーンの出力向上により冷却性能の向上も求められるので、フロント開口部の拡大をはじめ、コーナー部形状の付け方も徹底的に研究し、サイドエアカーテンの最適化を行なうことで、サイドラジエターやリアインタークーラーへの流速を向上させた。各部の形状については実際にデザイナーが自ら風洞実験を繰り返し行ない形状を決め、すべての形に意味がある」と説明。

 また、フロント開口部を拡大するとフロントのリフト(浮く力)が増えてしまうので、フロントリップスポイラーで床下へと風を誘導し、センターの流速を速めるためにリアディフューザーのフィンの高さ、角度、長さも綿密に計算。特にタイヤが撒き上げたウェイクは壁を作ることで外側に流し、ダウンフォースの変化を抑制した。「空力は低い車速からでも効果があるので、前後のバランスをきっちり取った」と水上氏は言う。

タイヤとホイールの性能向上
サスペンションの性能向上
エアロパーツによる冷却性能向上
ダウンフォースが増加したことでハンドリング性能が向上

 走行モードも従来と同じ4種類となっているが、デフォルトの「SPORT」ではリズミカルに軽快に走ることができ、「SPORT+」では究極の一体感が味わえ、「TRACK」ではサーキットでの限界走行領域でも自在に操れるといい、鈴鹿サーキットでは約2秒のタイム短縮に成功している。また「QUIET」では次世代のスーパーカーを予感させるよりシームレスな電動体感ができる走りを実現しているという。

 特に「SPORT+」モードについて水上氏は「ドライバーとクルマのより高い一体感を目指し、コーナー進入のブレーキング操作にリンクしたシフトダウンを改良し、より素早いシフトダウンを実現しました。そこからSH-AWDによりターンインを開始、コーナーのAPEX(頂点)通過直後にきっちりと内側を向くように体制を整えてくれて、結果アクセルをどんどん踏んでいけるようになる。コーナー後半からは四輪を使ってダイレクトに加速していき、同調するサウンドも相まって、コーナーを曲がるのが楽しくなる設定に仕上がっている」と解説。

全速・全域でスーパーカーを体感できることを目指した
「SPORT+」モードにおけるコーナリング解説

 デザインも「パフォーマンス・デザイン」というコンセプトに基づき、全体のフォルムを含めた佇まいを重視しつつ、ひと目でNSXだと分かるスタイルも追求。フロントまわりは性能に裏付けられたインテーク形状を取り入れつつ、ワイド&ローに見えるアグレッシブな造形を採用。リアは「NSX GT3 Evo」からインスパイアを受けたディフューザーを開発。フロント同様にワイド&ローを追求しながら、迫力と色気のあるデザインに仕上げられている。細部にブラックパーツを増やすことでType Sの世界観を表現しているという。ホイールは立体的でシャープでエッジの利いた新規デザインとなり、カラーは「シャークグレー」と「ベルリナブラック」の2色が設定されている。

 インテリアは「ハイコントラスト&シナジーコクピット」を目指して開発。全体の素材の配置をはじめ、軽い素材となるアルカンターラを中心に構成しつつ、パフォーマンス・デザインの世界観も同時に表現した。

 水上氏は「NSXは普通に乗れるスーパーカー」と言い、サーキットからコンビニまで乗って行けるクルマと表現する。また、性能からして「Type R」のほうが似合うと思う人もいるかもしれないが、「R」は“レーシング”なイメージを色濃く感じてしまうため、誰でも乗れるスーパーカーであることを表現することも含め、SUPERの「S」にしたと解説してくれた。アメリカで展開している「アキュラ」ブランドでもType Sシリーズを幅広い車種でラインアップしていることもあり、その点でも収まりがよかったという。

 今回このType SでNSXが幕を閉じることになったことについては、排ガス規制などがどんどん厳しくなる背景や、世の中の電動化やカーボンニュートラルへの舵切りが思ったよりも早いことなど、「何か1つのことで決まった訳ではなく、複数の要因があり結果としてこのタイミングで最終モデルとなった」と水上氏は説明している。

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