新型コロナウイルスとの闘いが長期化する中で感染拡大を抑えながら、経済・社会活動を正常化させる切り札となるか。欧州諸国の先行事例を注視する必要がある。
フランスは今月、ワクチン接種の完了を示す証明書の活用を拡大した。病院や高齢者施設への入場、また航空機、長距離鉄道の利用、飲食店入店、イベント参加についても証明書の提示を義務づけた。違反者には罰金が科される。
証明書は「衛生パス」と呼ばれ、PCR検査の結果も表示される。ワクチンを接種していない人は、検査の陰性証明を使って諸施設の利用が可能になるという。
マクロン仏大統領は7月のテレビ演説で、「全国民のワクチン接種に向かって進むことが、正常な生活に戻る唯一の道だ」と述べ、制度への理解を求めた。
フランスなどの欧州各国はロックダウン(都市封鎖)と呼ばれる罰金付きの外出規制を繰り返し、経済や市民生活は大きな打撃を受けた。それほどの強い措置でも、流行を封じ込められていない。
衛生パスは、感染力の強いデルタ株に対処するため、ワクチン接種を加速させる方法として打ち出されたものだ。マクロン氏は、未接種の人の行動が一定の制限を受けるのも、やむを得ないと判断しているようだ。
演説後、若者層を中心に接種の申し込みが急増し、全人口の接種率は約6割となっている。「接種の強制だ」と反発する声もあるが、世論調査では過半数が衛生パス制度に賛成しているという。
ドイツも、感染拡大地域では、レストランでの食事や屋内イベント参加の際、ワクチン証明書や陰性証明の提示を義務化する方針を決めた。英国も、飲食店の経営者やイベント主催者らに客の証明書のチェックを勧奨している。
日本が欧州の制度をそのまま導入するわけにはいかない面もある。証明書の提示を義務化すると、未接種者の排除につながりかねないという批判が生じそうだ。接種したくても持病などで受けられない人への配慮も必要だ。
一方で、証明書の活用が接種率を高め、国民の行動をロックダウンで規制することなく、感染拡大を抑えるのに有効なのは確かだろう。証明書の提示で割引などの優遇を受けられるようにする制度は検討に値するのではないか。
政府は、ワクチン接種が重症化を防ぎ、医療現場の負担を減らす効果もあることについて、国民の理解を深めるべきだ。
ワクチン証明書 欧州の活用例を参考にしたい - 読売新聞
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